「なんでも叶えてくれるというのなら、秀吉さまを生き返らせてくれ…!」

ぽた、と大きな滴が政宗の頬に落ちる。小さい体を縋るように抱き締められているせいで表情を伺うことはできないが、それでも三成が、悲しみに暮れた顔をしているのは理解できた。

「それは、俺達紅茶王子にはできない」

ぺた、と蒼白い三成の頬に政宗は触れる。微かに響く鬼哭の声が、無力な己を責めるようだった。「なんでも叶えてやるって言っといて…なんもできねぇなぁ…」sorry、と異国語で紡がれた謝罪の言葉。それに応えることなく、三成はただ、静かに政宗を抱き締める。

「…せめてアンタが、寂しくないと笑えるようになるまで。俺がアンタの傍にいてやるよ」

霞がかった意識の中、震える音でそう、聞こえた気がした。



鳥の囀りと、カーテンの隙間から差し込む日の光に意識が浮上する。ああ、泣きつかれて眠ってしまったのか。恥ずかしい姿を晒したことを情けなく思い乍ら掌中へ目を遣り、そこに誰もいないことに三成は声を失う。さあ、と全身の血が下がっていくのがわかった。

「そばに、いると…」

あの言葉は嘘だったというのか。わなわなわなと震える唇が、音もなく開閉する。優しい言葉を吐いておいて、そんな。ひくり、と喉が鳴りかけた、その時だった。

「なんだ、起きてたのか」

ガチャ、というドアノブを捻る音と共に降ってきた声。勢い良くその方を振り返れば、見たことのない男が立っていた。鳶色の、やや長めの髪。右はそちらだけ長い前髪で覆われているが、伺える細められた金の左目。呆けた三成を見て、けたけたと笑う顔。覗く八重歯。見たことないだなんて、それは嘘だ。この男は、三成の弱さを引き出した、あの紅茶王子そのものではないか。

「、まさ、むね」
「ふっ…ご自慢の前髪が、大変なことになっていますよ、ご主人様」

茶化す風に言って、三成の髪に手を伸ばす政宗。その手を弾いた三成は、簡単に身を整えてベッドに悠然と座り直した。

「…前髪を直せ。いつものようにだ。そうしたら貴様が傍にいるのを許可してやる」

ふい、と顔を逸らしながら発せられた内容に、政宗はくっ、と口端をほどいて。

「Yes ,my lord.」

骨張った白い指を、三成の銀糸に絡めたのだった。


2011/01/09